訥々

椅子に座って夢の話をします。

夢の住人との会話

私は普段、文字を読むのが遅い。目を滑らせると文字もふよふよ動いてしまうので、定規や付箋を補助に使うことが多い。

昼寝をしていると、夢の中でとてもスラスラと小説が読めて気分が良かったことがあった。

あんまりスラスラと読めるので嬉しくなり、隣で新聞を読んでいた人にそのことを伝えた。

たしか私はこう言ったと思う。「夢の中だから文字がよく読める」すると隣の人は怪訝な顔をして、「これが夢なわけないでしょう」とこたえた。

あんまり怖い顔で言うので、私も失礼なことを言ったかな、と思ったが、「これは夢だ」と思っていたので、すこしムキになって「いや、これは夢ですよね」と返した。

すると私の視野が後方へ引っ張られて、視界が開けた。そこには私を取り囲むようにして、数人、老若男女が佇んでいた。

皆どうしてか落ち着かない様子で周囲を警戒していた。状況を理解していないのは私だけのようだった。しかし自分が失言をしてしまったのだ、ということは分かった。

「やっぱり読めないです。私は文字がよく読めないみたい」と言うと、皆、安心したように散っていった。

そのとき読んでいた本は実際に私の本棚に存在しているので、起きたらまた読んでみようと思った。

夢から覚めて、しばらくぼんやりしたあと、私は本棚を探した。夢でスラスラ読めたその小説はロシアのSF小説で、翻訳がすこし読みづらいな、と思っている本だった。

夢の中なら原著を読めたりしないのかな。